環境が最悪なので推し活してたら推しから溺愛されることになりました
   ◆◇◆


「おはようございまーす」
「おはようございます」
 現場での挨拶は、何時であろうといつも『おはようございます』と決まっている。
 書類やノートパソコンを近くのテーブルに置き、美知華はすぐに準備に取り掛かる。
(今日の撮影は『イケリウム』だけだから、彼らの好きそうな飲み物と人数分の水と、あと休憩中に食べる用のお菓子とかあった方がいいかな)
 推しが来るとはわかっていても、そこはきちんと線引きがしてある。
 だから美知華は仕事モードに入って、テキパキとやるべきことをこなしていた。
 の、だが。
「おはようございまぁす! 今日はよろしくお願いしますー」
 媚びの入った高めの声が撮影ブースに響いた。
 よく知ったその声につられて美知華がそちらを向くと、案の定そこには舞衣の姿があった。
「なっ、え? 近藤さん、どうして……」
「あー、なんかぁ、橋本主任から佐伯一人じゃ大変だろうからってお願いされちゃいましたぁ」
 やや舌足らずにそう言ってくる舞衣に、美知華はグッと拳を握る。
 正直に言うと、舞衣はかなりのミーハーで、とくに人気配信者の取材や撮影がある時は必ず出席することで有名だった。
 だからきっと今回も、橋本主任にお願いをしたのではないだろうか。
 いや、もしそれが邪推だったとしても、この仕事を一人で任せてくれなかったこと自体にとても腹が立つ。
 何せ美知華は負けず嫌いな面があるからだ。
 そこまで考えて、美知華は首を横に振る。
(いけない。仕事中、仕事中……)
 推しが来るからこそ、最高の仕事をしたいと美知華は思っている。
 何せ今やチャンネル登録者100万人を超えて、雑誌に載れば即売り切れ、十代女子が選ぶ好きな配信者に三人ともトップ10入りするほど、社の中で最も勢いのある配信者なのだ。
 ある意味、この会社を支えてくれている稼ぎ柱と言っても過言ではない。
 だが、ここまでの人気になるため、彼らが様々な努力をしてきたことを美知華は知っている。それでも目立った炎上無しに、『イケリウム』の三人はコツコツと地道に人気を増やしていったのだ。
 だから美知華は、彼らを推し以前に、一人の人間として、そして社会人として、彼らを強く尊敬しているのだった。
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