蕩ける愛であなたを覆いつくしたい ~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されています~
 「これです」と言ってから、彼は肩にかけていたカメラをわたしの前に差しだした。
  わたしが首をひねると、彼は言った。
 「俺、趣味でカメラやってるんです。特に夜景を撮るのが好きで。前から、永代橋からリバーシティを撮りたいと思ってて」
 「へえ、初耳」
 「誰にも言ってないから。夜景撮るのが趣味、ってなんか暗くないですか」
 「そうかな。そんなことないんじゃない?」

 その返事が、いかにもおざなりに聞こえたんだろう。
 浅野くんは形のいい眉を少しだけしかめた。

 「どうでもいいって感じの答えですね。俺に興味ないのが見え見え。まあ仕方ないか。宣人さんの彼女ですもんね、梶原さんは」

 ふいに宣人の名前を出されて、つい表情を歪めてしまった。
 そんなわたしの反応に、彼は納得顔で頷いた。

 「ああ、喧嘩したんですね。宣人さんと」
 「そんな自信ありげに」

 彼はやはり形のいい唇の端を少し持ちあげた。

 「だって、もろ顔に出てますよ。正直な人なんですね、梶原さんは」

 わたしはちょっと肩をすくめた。
 「なんかバカにしてない? まあ、いいけど。喧嘩、ならまだましだったんだけどね」とつい口にしてしまった。
 しまった。これじゃ話を聞いてくれって言っているようなものだ。

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