蕩ける愛であなたを覆いつくしたい ~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されています~
 案の定、浅野くんは「何かあったんですか? 俺でよければ、話、聞きましょうか」とわたしの顔を見つめてきた。

 興味本位な口ぶりではなかった。
 心から心配してくれているのが伝わってくる真剣な声音だった。

 「うーん、ありがとう。でも、いいよ」
 彼も同じ部の同僚。
 あまりにも身近すぎて打ち明けるのを躊躇した。

 それでも、浅野くんは引き下がらない。

 「部内で一番しっかり者の梶原女史が泣くなんて、よっぽどのことでしょう? 話したほうがすっきりしますよ。心配しなくても誰にも言いませんから」
 そう言って、柔らかく微笑んだ。

 そんな彼の優しさが、弱っている心にモロに響いた。

 また涙がこぼれそうになり、慌てて後ろを向いた。
 そして欄干に手をおいて暗い川に目をやった。

 浅野くんはその後ろで、ただ静かにわたしが口を開くのを待ってくれている。
 わたしは、彼の方は見ずに話し始めた。

 「本当に誰にも言わないでね。家に帰ったら……わたしたちの寝室で宣人と岡路留奈が抱き合ってたの。それで後先考えずに飛び出してきてしまって……」

 浅野くんが小さく息を飲んだのがわかった。
 そして吐き捨てるように言った。
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