蕩ける愛であなたを覆いつくしたい ~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されています~

「なんだよ、それ」
 思いがけなく強い口調だった。思わず振り返ると、彼はまるで自分がひどい目にあったように眉を(しか)めていた。

 嬉しかった。
 この苦しさを理解してくれる人がいる、今のわたしに一番必要なのはそれだと気づいた。

「……ひどすぎますね。それで、伊川さんは梶原さんに見られたこと、気づいたんですか」
「うん。ベッドにいたふたりに鍋で水ぶっかけて飛び出してきたから」
 浅野くんは目を見張り、そしてさっきまでの(けわ)しい顔をちょっとゆるめた。

「水を? やるな。さすが梶原さん」
「そんなことで感心しないでよ。だから今から、今晩、泊まるところを探さなきゃいけないんだ」
 わたしは大きなため息をついた。

 また情けなさと悔しさと一緒に涙がこみあげてきた。
 もう隠す必要はないので、わたしは手で顔を覆って泣きじゃくった。
「もうほんとに……信じられない……よ、こんなの」

「梶原さん……」
 ひくひくとしゃくりあげるわたしの両肩に、浅野くんはそっと手をかけてきた。
 それでも下を向いたまま泣き続けるわたしの耳元にそっと囁いた。

「あの……抱きしめてもいいですか。今それしか、梶原さんを慰める方法が思いつかない」
 答える前に彼はわたしを引き寄せた。
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