蕩ける愛であなたを覆いつくしたい ~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されています~
 コートを隔てていても彼の体温が伝わり、わたしを優しく包み込む。
 「あ……さの……くん」
 彼はわたしの頭に手をおいて、優しく撫でてくれる。
 「ひどい目に合いましたね。かわいそうに」

 心地よすぎて、また涙が溢れ出す。
 まずい……涙と一緒に鼻も出る。
 「コート、汚しちゃう」
 鼻をすすりながら、わたしは言った。

 「そんなの、どうでもいいですよ。梶原さん、行くところがなくて困ってるんですよね。じゃあ俺の家に来ます?」
 わたしは彼を見上げた。
 「えっ?」
 
 彼は腕をほどき、身体を離した。
 「下心はないですよ。この状況につけこもうなんて、まったく思ってない」
 わたしは即座に答えた。
 「ううん、それはぜんぜん心配してないけど」

 その言葉に彼は苦笑を漏らす。
 「そこまではっきり肯定されるのも、男としてはどうなんだろうと思いますけどね」

 「違うよ。そういう意味じゃなくて、浅野くんはモテるから、わたしみたいなアラサーは範疇外だろうと思っただけで」

 彼は肩をすくめた。
「まあ、遠慮せずに避難所だと思ってくれればいいですよ」

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