蕩ける愛であなたを覆いつくしたい ~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されています~
 父は昨年、定年退職したので、つましい年金暮らし。加えて、母の通院費や入院費もかかる。

 転職という手もあるけれど、一介の事務員であるわたしにたいしたスキルはない。
 年齢を考えれば、今以上の条件、いや正社員で雇ってくれる会社があるかどうか。

 あーあ、なんでこんな目に合わなければならないんだろう。
 引っ越し費用のことも頭が痛い。
 部屋が見つかるまでのマンスリーマンションの賃料、新しい部屋の敷金、礼金……
 こつこつ貯めてきた貯金をはたくことになりそう。

 でも、いつまでくよくよしても仕方がない。
 出ていく以外の選択肢はないのだから。

 あれこれ悩んでいたから、さすがに眠れないかと思っていたけれど、いろいろな疲れとベッドのあまりの寝心地の良さに引き込まれるように眠りに落ち、目が覚めたときはすでに朝の9時を過ぎていた。

 (一人にするのが心配なんです)って、浅野くんは言ってくれたけど。

 こんな図太いわたしを心配してくれたなんて、浅野くん、取り越しく苦労もいいところだ。

 着替えと洗面を終えて、リビングに向かった。
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