蕩ける愛であなたを覆いつくしたい ~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されています~
 向かいの椅子を引きながら、彼は肩をすくめた。
 「わざわざって言うほどのものでも。残りごはんで作っただけだから」
 「ありがとう。いただきます」
 手を合わせながら、本当に何から何まで、と言おうとして口をつぐんだ。
 ついさっき、聞き飽きたと言われたばかりだ。

 一口食べて目をみはる。
 「うわ、すごくおいしい! 食欲ないから食べられないと思っていたけど、これはいける」
 「それは良かったです」
 彼は嬉しそうに目を細めた。

 それにしても、気が利きすぎ。
 さすが、クライアントへの手厚いフォローで有名な浅野くんだ。

 彼の作ってくれた、鶏ひき肉入り卵粥は本当に美味しかった。
 ほうじ茶もしみじみ美味しい。

 料理男子、ポイント高い。
 会社の浅野推しの子たちが知ったら、悶絶してバタバタ倒れそう。

 「毎朝、こんなにちゃんと作ってるの?」
 「まさか、休日だけですよ。普段は食パン焼いて、インスタントコーヒー淹れるぐらい」
 「それでも、ちゃんと食べるんだね。えらいよ」とわたしが感心していると、彼は急に真面目な顔になって尋ねてきた。

 「で、どうするんですか。これから。伊川さんと話しあうんですか」
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