蕩ける愛であなたを覆いつくしたい ~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されています~
 なんとか衝動を抑えこもうと、わたしは手のひらを握りしめた。

 留奈はまだは自席に戻らない。

 「何? まだ何か用があるわけ」
 不機嫌さがあらわになっていく。

 「宣人さん、言ってましたよ。留奈のおかげで常務と繋がりが出来て、これで出世間違いなしで嬉しいって」

 暗に自分のほうが宣人にとって役に立つ女だと言いたいらしい。
 さすがに切れて、声を荒げそうになったとき……

 「梶原さん」と後ろから声がかかった。
 「おはようございます。あの、ちょっと資料作成をお願いしたいんですが」

 浅野くんだった。

 「あ、浅野さん。おはようございますっ」と留奈が突如態度を変えて、キラキラの必殺スマイルで挨拶するも、浅野くんはそっけなく「おはよう」とただ一言。

 若手のなかで、彼女の笑顔に反応しないのは彼ぐらいだ。
 すげなくあしらわれて目を吊り上げている彼女には気を留めず、彼はわたしに言った。

 「悪いけど俺の席まで来てもらえますか。内容を説明しますんで」
 「わかった、今行くね」

 席に向かう途中で、浅野くんは小声で囁いた。
 「大丈夫?」

 やっぱり助けに来てくれたのか。

 「ありがとう」
 わたしも小さな声で答えた。
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