蕩ける愛であなたを覆いつくしたい ~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されています~
 「あるよ。何?」
 「悪いんだけど……部屋に行くの、ついてきてくれないかな」
 「部屋って、宣人のところ?」
 「うん。当座の着替えとか取りに行かないと。やっぱ、一人だと行きづらいっていうか……」
 正美はポンと自分の胸を拳でたたいた。
 「行くに決まってるでしょ。わたしが茉衣の頼み、断ったことあった?」
 「そうだね、ありがとう」
 わたしは手を合わせた。

 そして会社が引けてから宣人のマンションまで正美に一緒に来てもらった。
 
 地下鉄の出口を出ると、見慣れた通りがまるで違う場所のように感じられた。
 マンションに近づくにつれて、足取りが重くなってくる。
 正美がいてくれなかったら、この辺で回れ右していたかもしれない。

 ドアを開けたとき、女性の靴がなかったので、ひとまず安心した。

 「わたし、ここで待ってるよ」

 そう言うと、正美はキッと(まなじり)を上げて、敬礼のまねをした。
 「もしヤバそうだったら、すぐ突入するから」

 心強い正美の言葉に感謝しつつ、わたしは言った。

 「うん、行ってくる」
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