蕩ける愛であなたを覆いつくしたい ~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されています~
 身体からすべての力が抜けてゆくような気がした。
 あんな男と1年近くも付き合っていたかと思うと、本当に自分が情けなくなった。
 心の隅にほんのわずか残っていた、宣人への未練が、きれいさっぱり消えてゆくのを感じていた。

「別れることになって、ほんと正解だったよ」
 正美に言われ、わたしはただ頷きかえした。

***

 正美は一緒に大崎まで来てくれた。
 ただ、居候の身なので、部屋に上がってもらうわけにもいかず、マンションの前で別れた。

「今日はありがとう。今度なんか(おご)るね」
「何、水くさいこと言ってんの。このぐらい、お安いご用だって」
 屈託のない笑顔を残して、正美は帰っていった。


 浅野くんはまだ帰っていなかった。
 ああ、そういえば、今日は接待で遅くなるって言っていた。

 光も音もない部屋は、いつもよりさらに広く感じられた。
 ひとりきりだと、確かに寂しい。
 浅野くんの言葉が今は実感できた。
 
 とりあえず、荷物から明日必要な服を出し、カップめんを食べ、ぼんやりとした頭のままで、シャワーを浴びて、洗顔した。

 やるべきことを終えてしまうと、宣人のことが、嫌でも頭にのぼってくる。

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