蕩ける愛であなたを覆いつくしたい ~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されています~
 「なんでそんなこと、知ってんだよ、お前が。茉衣、お前、こいつと何かあるのか」
 
 浅野くんは冷ややかに言った。
 「たとえそうでも、あなたにはもう関係ないでしょう」

 「浅野……てめえ」

 宣人が浅野くんにつかみかかる。
 でも彼はその手を取り、逆にひねりあげた。
 「これ以上、彼女を傷つけるな!」
 「痛ッ、この野郎!」

 どうしよう。騒ぎになる前に止めなきゃ!

 そのときドアが開き、この場の空気におよそ似つかわしくない、間延びした声が響いた。
 「あ、いた。伊川、課長が呼んでるよ。至急だって」
 正美だった。

 「浅野、覚えておけよ」
 宣人はいつものように舌打ちをひとつして、その場を後にした。

 正美は心配そうな顔を側まで来た。
 「少ししたら、顔、出してくれって、浅野氏に頼まれたんだよ。平気? 茉衣」
 「うん……平気」
 「今日は一緒に帰ろう。わたしがボディガードになってあげるから」
 「いや、それには及ばない。一緒に帰りますよ、俺が」

 浅野くんの言葉に、正美は即座に首を振った。

 「いや、浅野氏。それはまずいよ。あんたの取り巻きまで茉衣の敵に回したら、わたしひとりじゃ、とても、庇いきれない」
 彼は何か言おうとしたけれど「……わかりました」と言い、先に資料室から出て行った。
 
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