蕩ける愛であなたを覆いつくしたい ~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されています~
正美は駅まで一緒に帰ってくれた。
電車に揺られている間、歩きながら交わした会話が脳裏によみがえる。
「浅野氏、茉衣が好きなんだと思うよ」
「うん」
「茉衣のことだから別れてすぐ次っていうのが不誠実だと思うんだろうけど、そんなことないよ」
「うん……」
あのときの真剣な眼差しはたしかに彼の気持ちを語っていた。
もう気づいていた。
彼が言っていた「好きな人」が誰なのかということは。
でも、どう考えても、わたしは浅野くんにふさわしくない。
3歳も年上で、それにあのマンションに住めるほどの資産家の息子なのだ、彼は。
わたしなんかより、もっとふさわしい人と付き合わないといけない。
最寄りで降り、マンションに隣接するスーパーに立ち寄った。
とにかく、今は美味しい食事を作ることに専念しよう。
ありったけの気持ちを込めて、ごちそうを作らなきゃ。
あれこれ悩んだ結果、カルパッチョ用の刺身やステーキ用の牛ヒレ肉、パン、野菜とデザート用の果物、そしてワインを買い込んで、部屋に戻った。一応、イタリアン・ディナーのつもりだ。
浅野くんが帰ってきたのは、食事の支度がほぼ済んだころだった。
「ただいま」
「あ、おかえりなさい」
「玄関先までいい匂いがしてましたよ」
「ちょうどできたところだから」
テーブルにセッティングされた色とりどりの料理を前に、彼は子供のように目を輝かせた。
「すごいな、うまそうだ」
着替えを終えて、席についた浅野くんはいただきますと手を合わせて、まずカルパッチョを口にした。