蕩ける愛であなたを覆いつくしたい ~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されています~
 「ずっと……我慢してたんだ、本当は」
 
 そう言うと、彼はゆっくりとわたしに手を伸ばしてきた。
 そして、壊れ物を扱うように、そっと頬に触れた。

 そのすべてがまるで夢のなかの出来事のようで、わたしはただ、トパーズのように美しく煌めいている彼の瞳を見つめつづけていた。

 「前に言ったこと覚えてる? 俺に好きな人がいるって」
 わたしはゆっくり頷いた。

 長くしなやかな美しい指がわたしの頬をなぞりだす。
 それから指に絡めた髪にそっと口づけ、目だけをわたしに向けた。
 
 「はじめて会ったときからずっと好きだった。伊川さんの彼女だって知ってからも、諦められなくて」

 「浅野……くん」
 「まだ彼が好き?」

 わたしはゆっくりと首を横に振った。
 「もう、彼への想いはかけらも残ってない。自分でも不思議なぐらい」
 
 「茉衣さん」

 アルコールのせいで、いくぶん上気した顔が近づいてくる。
 わたしは目を閉じた。

 もうとっくに浅野くんが好きになっていた。
 少し意地悪だけれど、いつでもわたしを優しく包み込んでくれる彼のことが。

< 49 / 67 >

この作品をシェア

pagetop