蕩ける愛であなたを覆いつくしたい ~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されています~
 「あ、誰か来たかも」
 わたしを抱きしめたまま、一樹が言う。

 たしかに足音が資料室の前で止まったような気がして、鼓動がはねた。
 入り口から見えない棚の陰にいたけれど、こっちまできたらどうしようかと焦る。

 「離して……」小さな声で訴えても、彼はしーっと唇に指をあてるだけ。
 そのまま、しばらく息をひそめていたけれど、結局、誰も入ってはこなかった。
 ほっと息をついてから、わたしは彼の胸を押して絡みつく腕から逃れた。

 「もう行かなきゃ」
 彼はわたしの口元を見て、ふっと笑みを浮かべる。

 「俺が先に行く。茉衣は口紅直してからの方がいいんじゃない?」
 「あっ……そうする」

 「それ、俺もか」と言いながら、彼は手の甲で自分の唇をぬぐった。

 その仕草があまりにもエロティックで目を放せなくなってしまい……
 
 つまりわたしは、もうどうしようもないほど、一樹という沼に(はま)りきっていた。
 
 
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