蕩ける愛であなたを覆いつくしたい ~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されています~

***
 
 それから約2週間、宣人は不気味なほど鳴りを潜めていた。
 このまま何も起こらなければと思ったのも束の間、人事部から昇進辞令が発令され、事態が急変した。

 宣人の主任昇任は大方の予想通りだった。
 けれど、一樹が、宣人に先駆けて係長に相当するプロジェクト・リーダーに大抜擢されたのである。

 「さすが浅野くん、すごすぎる!」
 浅野推しの子たちが大騒ぎするなか、わたしの心に不安が広がってゆく。
  
 「おい、浅野、お前も来い!」
 案の定、血相を変えた宣人が一樹に言った。
 
 「どうして俺を差し置いてお前がリーダーなのか、人事部に問いただす」
 「かまいませんよ、行きましょう」
 一樹はあくまでも冷静に答え、踵を返してドアに向かう宣人の後を追った。

 ほどなくして、ふたりは戻ってきた。
 いくら査定理由を問いただしたところで、教えてもらえるはずはない。

 憤懣(ふんまん)やるかたない表情の宣人は、乱暴にチェアに腰をおろし、せわしなく片足を動かした。

 これまで、営業部一の成績を誇る先輩としていばりちらしていた宣人が、後輩の一樹の下で働かなければならない。
 プライドの高い彼に耐えがたいことは、容易に想像がつく。

 しかも、一樹に対しては資料室でやりこめられた恨みもある。


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