蕩ける愛であなたを覆いつくしたい ~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されています~
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それから約2週間、宣人は不気味なほど鳴りを潜めていた。
このまま何も起こらなければと思ったのも束の間、人事部から昇進辞令が発令され、事態が急変した。
宣人の主任昇任は大方の予想通りだった。
けれど、一樹が、宣人に先駆けて係長に相当するプロジェクト・リーダーに大抜擢されたのである。
「さすが浅野くん、すごすぎる!」
浅野推しの子たちが大騒ぎするなか、わたしの心に不安が広がってゆく。
「おい、浅野、お前も来い!」
案の定、血相を変えた宣人が一樹に言った。
「どうして俺を差し置いてお前がリーダーなのか、人事部に問いただす」
「かまいませんよ、行きましょう」
一樹はあくまでも冷静に答え、踵を返してドアに向かう宣人の後を追った。
ほどなくして、ふたりは戻ってきた。
いくら査定理由を問いただしたところで、教えてもらえるはずはない。
憤懣やるかたない表情の宣人は、乱暴にチェアに腰をおろし、せわしなく片足を動かした。
これまで、営業部一の成績を誇る先輩としていばりちらしていた宣人が、後輩の一樹の下で働かなければならない。
プライドの高い彼に耐えがたいことは、容易に想像がつく。
しかも、一樹に対しては資料室でやりこめられた恨みもある。