蕩ける愛であなたを覆いつくしたい ~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されています~
 「でも伊川さん、なんで、そんなこと、したんだろう」と女子の一人が言う。

 「そういえば最近、イラついていたな。会社が自分の実力を認めないってよく愚痴ってた。本当は浅野の台頭に怯えていたんだろうけど。一番じゃなきゃ気が済まない人だから」と同期の島田がまことしやかに口にした。

 「しかし、伊川もバカなことをしたな。絶対に不正を行うはずのない浅野にぬれぎぬを着せるとは」
 部長の言葉に、みんな首を傾げた。

 「どういうことですか?」

 「浅野はSAEKI本社の社長のご子息だ。実は私もさっき知ったばかりだが。だから、うちの会社の不利益になることをするわけがないだろう」

 「えー、そうだったんだ」と驚きの声が上がった。

 「冴木社長のご意向でこれまでそのことは伏せてきたそうだ。特別扱いされないようにと。ああ、言っておくが今回の昇進は純粋に浅野の実力が認められた結果だぞ。私が査定したんだから間違いない」

 「でも、なんで浅野?」と誰かが疑問を口にした。

 そのことについては部長の横に立っていた一樹が説明した。

 「冴木の実子ですが、俺は母方の伯父の養子なので。すみません、結果として皆さんを騙すような形になってしまって」

 「え、って言うことは」と声を上げたのは正美。
 「伯父さん、浅野茂社長なの? 旧財閥系の浅野商事の」
 
 
< 61 / 67 >

この作品をシェア

pagetop