蕩ける愛であなたを覆いつくしたい ~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されています~
 それからさらに1年後の6月。

 わたしたちは東京で挙式を終え、ハネムーンでオーストラリアに来ていた。
 
 「茉衣、こっち向いて」
 夕暮れの海岸で、一樹はカメラを構えている。

 思えば、ふたりを結びつけてくれたのはカメラだった。
 
 あの夜、一樹が永代橋に写真を撮りに来なければ、今、わたしたちはこうしていなかったかも知れないと思うと、とても不思議な気持ちになる。


 その場でしばらく待っていたけれど、結局一樹はシャッターを押さず、わたしの方に駆け寄ってきた。
 
 「どうしたの?」
 「やっぱり撮るのやめた」
 「どうして?」
 
 一樹は笑みを浮かべて、わたしを抱き寄せた。

 「こんなに綺麗な茉衣を見るのは俺だけでいい。他の誰にも見せたくない」

 「一樹……」

 斜めに傾けた一樹の顔が近づき、わたしは目を閉じる。

 重なり合った唇から、一樹が好きだと思う気持ちが溢れ出す。

 「好き」

 耳元でそう囁くと、手が頭の後ろに回ってきて、彼はより一層甘く激しくわたしの唇を喰んだ。

 辺りが暗くなってゆく。
 夕日はもう水平線の彼方に消えたのだろう。

 それでもわたしたちは、まだ寄り添って海を眺めていた。 

「まるでこの世に二人きりしかいないみたい」

 寄せては返す波音がまるでわたしたちを祝福してくれているようで……

 「茉衣、好きだよ」

 そして、そう囁く一樹の言葉が波音とともに、わたしを覆い尽くし、わたしのすべてを……満たした。

 (了)

 


 
 

 


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