蕩ける愛であなたを覆いつくしたい ~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されています~
 でも、今は2月。それも深夜だ。今年は暖冬で、昼間は異常なほど暖かい日もあったけれど、夜は冷え込む。だんだんと指先やつま先の感覚が無くなってきた。

 ひとまず24時間営業のファストフード店かファミレスを探そう。
 ようやくそんな気が起こり、ポケットからスマホを出し、かじかむ手で検索をはじめた。

 そのときだった。
 向こうから足音が近づいてきたのは。


 「やっぱり、梶原さんだ」
 親し気に声をかけてきたのは、浅野くんだった。

 「えっ、浅野くん?」
 うわ、こんなときに知り合いに会うなんて最悪。
 今さら無駄だとは知りつつ、わたしは慌てて手の甲で涙をぬぐった。

 「暗いのに、よくわたしだって気づいたね」
 鼻をすすりながら、わたしは尋ねた。

 「まず、遠くから見て、全体のシルエットに見覚えがあるなと思って。それにそのコートも、梶原さん、よく着てるでしょう。あ、でも決め手は、スマホの光で顔が照らされたからですよ。こんな時間に、誤って知らない女性に声をかけるのはさすがにヤバいので」

 その観察力と冷静な判断、いかにも彼らしい。
 ぼんやりとそんなことを思いながら、ふたたび尋ねた。

 「で、浅野くんは? こんな時間になんでこんなところに?」

< 9 / 67 >

この作品をシェア

pagetop