プラタナスの木陰で
第2章

 あたしは新入生歓迎会に向かう電車に乗った。いろいろな人を観察してみた。幸せそうなカップル。お母さんと小さな男の子。女子高生2人組。仕事帰りのサラリーマン。
「(このなかには、あたしみたいな罪人はいないんだ)」あたしは苦しくなって、息が苦しくなった。涙をこらえているあたしを、誰1人見向きもせず、各々の人生に集中している。
 新入生歓迎会の待ち合わせ場所につき、先生も新入生も、先輩もみな集まっていた。あたしはギリギリだけど何も言われなかった。もし、先生があたしの汚れた毎日を知れば?先生はあたしがほとんど大学にきていないことも知らなくて、ゼミにだけ顔を出していた。先生は、新入生の男の子と話していた。
 「始めまして。新入生の知基(かずき)です」と、たまたま向かい側の席になった男の子はあたしに自己紹介をした。
「わたし、汐里、よろしくね」その子を見ると、どうみても高校生で、子供で、まあ新入生というのはそういうことだが、あたしは癪にさわる。
「(この男の子はなんにも知らないんだ。いいなぁ。あたしが壊してあげようか…」あたしは衝動を抑えながら黙りこけて、知基くんも緊張して石のように押し黙っていた。


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