侯爵様の愛に抱かれて。〜大正溺愛華族譚〜
 葉子があっけにとられていると正則は葉子をひょいっと抱き上げた。葉子は顔を赤らめながら降ろすようにせがむが正則は聞く耳を持たずにいる。

「でも、買い出しが……」
「買い出し?」
「食料の買い出しで八百屋に向かっていた所だったんです」
「そうか。ならこちらの者に代わりに向かわせよう。それで大波家の屋敷に持っていけば良いのだな?」
「そうなりますが……よろしいのですか?」

 葉子は困惑した様子で正則を見る。

「ああ、それに葉子。貴様にはこれから紀尾井坂の屋敷に来てもらわねばならないからな」
「手当、ですよね?」
「それもある。が、しかし本題は別にある。結論から言おう。葉子、貴様を我が妻として迎え入れたい」
 
 正則に抱きかかえられた状態で求婚された葉子の顔は驚きと信じられないといったものであふれかえっていたのだった。
 その後。葉子はそのまま紀尾井坂家の屋敷に連れてこられた。大波家の屋敷の倍以上ある邸宅には、勿論女中や付き人らが大勢存在している。彼らが一斉に玄関で出迎えて来るのに葉子はどうすれば良いのかわからないといった具合でおろおろとしながら玄関へと歩く。

「あ、えっと、その……」
「貴様達!」

 正則の声が玄関から邸宅中へと高らかに響き渡った。
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