侯爵様の愛に抱かれて。〜大正溺愛華族譚〜
「俺はこの女を妻に迎える。大波子爵家の娘、葉子だ。皆よろしく頼むぞ!」

 正則がそう言い放った瞬間、女中達は一斉に頭を下げた。そして葉子の方へと顔を向ける。まるで命令を待つ兵のように。

「葉子、挨拶をするんだ。そして……妻になるか否かを言ってくれ」
「は、はい……大波葉子と申します。ふ不束者ですが、奥方として頑張りますのでよろしくお願いします」

 葉子が頭を下げるのと同時に、女中達もよろしくお願いします。と一斉に告げた。

(はあ、すごい……勢いで奥方になるって言っちゃったけど私、これからどうなるの? というか荷物は大波家の屋敷に置きっぱなしだし、どうしよ!)
「葉子、こっちにこい」
「は、はい……」
「医者か看護婦を呼んでくれ」
「かしこまりました。ご当主様」

 しばらくして女中によって医者が屋敷へと駆けつけてきた。

「すまないな、この者の手当てを頼む。あと女中達何人かこちらへと来い」
「なんでしょうか、ご当主様」
「大波家の屋敷に行って、葉子の荷物を全て回収して来い」

 正則はてきぱきと女中や医師に指示を出す。葉子はその間医師の手により擦り傷の手当てを受けていた。水で傷を洗い流し綺麗にして包帯を巻かれていく。

「これで大丈夫でしょう。傷口は清潔に保つように心がけください」
「お医者様、ありがとうございます」
「手当が済んだか。医者よありがとう。これ、代金だ」
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