侯爵様の愛に抱かれて。〜大正溺愛華族譚〜
 正則はすっとスーツのポケットから財布を取り出して、代金を医者に手渡した。

「いや、これくらいただで結構ですよ」

 と医者は言ったが正則はそれでも紙幣1枚くらいは持っていけ。と言って聞かなかったので医者はそのまま受け取り、屋敷を後にしたのだった。
 
「ふう、一件落着だな」

 そう穏やかに呟く正則へ、葉子はなぜ私を選んだのか。綾希子への対応からしてひょっとすると正則には既に婚約者となる相手がいるのではないかなどとおどおどしながら質問する。

「いや、婚約者もいない。だから安心して良いぞ。それに貴様の妹とは結婚したくないのでな。どうしても結婚したいなら妾でと言ったわけだ」
「そうだったのですね……」
「あんな女こっちが疲れるだけだ。それに俺は葉子しか眼中にないからな」
「なんで……私の素性を知っておられたんですか?」
「俺は侯爵家の人間だ。探偵くらい雇う事はたやすい。調査の結果貴様は大波子爵と芸者との間に生まれた娘で、その芸者は公家由来の華族のご落胤であるそうだな」
「え……?」

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