侯爵様の愛に抱かれて。〜大正溺愛華族譚〜
「えっ広い!」

 葉子の自室は勿論個室である上に、綾希子の自室の倍はある広さだった。畳敷きの部屋に梁からつるされたまげわっぱ型の水槽には赤い金魚が2匹ゆらゆらと泳いでいる。また桐箪笥の中には正則が彼女に与えた着物や肌襦袢や袴などに夜会で着ていく用のドレスなどがどっさりと入っていた。

「えっあの、服全部くれるんですか?」
「当たり前だ。ちなみにこの着物は俺の母親の形見でな。良かったら着てほしい」
「はい。大事に着させて頂きます」

 正則の母親は彼が5歳の頃、弟を産んだ時の産後の肥立ちが悪くなくなった。その弟は今、海軍に在籍しとある重巡洋艦に所属している。彼の将来の夢は戦艦の艦長、ひいては海軍の幹部格まで出世する事だそうだ。
 ちなみに正則の父親は3年前に亡くなっている。その為息子で長男の正則が若くして当主の座に就く事になったのである。

「部屋について分からない事があれば女中に聞くと良い。丁寧に教えてくれるだろう」
「ありがとうございます。そうさせて頂きます」
「さっそくだ。この桐箪笥にある着物のどれかに着替えると良い。その女中が着るような地味な着物ではかわいそうだ。女中よ。妻の着付けと髪結いを頼む」
「はい、ご当主様」

 葉子は女中3人がかりであれよあれよという間に豪奢な着物に着替えさせられ、髪も華族の奥方らしいものへと結い直された。

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