侯爵様の愛に抱かれて。〜大正溺愛華族譚〜
「奥方様。出来ました。いかがでしょうか?」

 女中から丸い赤色の手鏡を手渡された葉子。その姿の変わりように思わず口をあんぐりとさせたままになる。

(これが私……信じられない!)
「奥方様、お化粧もお直ししましょうか?」
「あ……おねがい、します」
「かしこまりました。では化粧道具ご用意させていただきます」

 化粧も終わると葉子の元に正則がやってきた。彼はより一層美しくなった葉子の姿に見とれ、じっと無言のまま葉子を見つめていたのだった。

(正則様がじっと私を見ている)
「正則様、いかがですか?」
「ああ。元々美しいのに更に磨きがかかった。やはり貴様は華族の者として生きるべきだ」
「あ、ありがとうございます……」

 夕方。日が落ちる頃合いに葉子と正則は少数の付き人を連れて屋敷を出た。目的地はあの女中……葉子の母方の祖母が経営している料理屋である。
 人力車に乗り移動する事約10分。目的地が目の前に現れた。

「葉子。ここだ」
「ここが……」

 料理屋の玄関の右側には葉ごろもと書かれた看板がひっそりと建っている。これがこの料理屋の店名だ。2人は人力車から降りて店内に入る。

「失礼する」

 中は華族の屋敷を髣髴とさせる広さだ。
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