侯爵様の愛に抱かれて。〜大正溺愛華族譚〜
「お食事、何になさいますか?」

 葉子の祖母であり店主の月子が正則と葉子にそう尋ねた。正則はすぐさまいつもの分を頼むと答える。

「葉子は何にする?」
「あ、おばあ様。えっと……」
「おすすめは鴨鍋か牛鍋だね。紀尾井坂様が注文したものは牛鍋よ。美味しいわ」
(お肉なんて貴重だからあまり食べないからなあ……じゃあ、)
「じゃ、じゃあ……牛鍋にします」
「では、ご準備いたしますのでお待ちください」

 月子は一旦大広間から去る。残されたのは正則と葉子、そして子爵とゆみの4人だ。子爵とゆみは既に食事を食べていた所で別の部屋から品をこちらの机に移してもらった。

「あの、もう結婚はされたので?」

 子爵がそう正則に聞いた。正則は式はまだだがもう決まった事である。とあっさりと告げる。

「勝手に決めてしまい申し訳ない。だがこちらとしても機会は必ずものにしたいのでね。彼女は大波家では女中として扱われていた。令嬢のように手順を踏んでやっていたら、貴様の奥方やその娘から何されるかわからないからな」
「うちの奥方が申し訳ない。そう言えば娘は紀尾井坂様の奥方になりたいと仰っていましたね」
「申し訳ないが、綾希子さんはまたどなたかとご縁があるだろう」
「そうだと良いのですが」

 言葉とは裏腹に正則の顔にはまるであんな娘に良い縁談など来る訳が無い。と書かれているように見えた。
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