侯爵様の愛に抱かれて。〜大正溺愛華族譚〜
 帰宅後。葉子は1人入浴していた。

(1人でゆっくりお風呂に入れるなんてはじめてだ)

 女中として暮らしていた時は誰かと一緒に入るか1人でかけ湯をするかくらいだった。こうして1人で浴室を独り占めしつつゆっくり入浴を楽しむなんて事は無かった。

「ふう……」

 入浴後。葉子は自室に戻り正則から頂いたあるものを読んでいた。それは教科書だ。
 葉子は勿論学校に通った事は無い。綾希子の登下校に同行する形で女学校に向かった事は数え切れないくらいあるが生徒として学校に通った経験は無い。

(これ、女学校の教科書よね)

 葉子が手にしているのは綾希子も通った由緒ある女学校で実際に使われている教科書だ。ちなみに葉子は女中からの教えで算盤と簡単な読み書きくらいなら一応出来る。

(私も女学校行きたかったな)

 葉子は実は女学校へ密かに憧れを抱いていた。艶やかな着物に袴にブーツを着用して通い恋や美について語り合い、卒業までに婚約が決まれば卒業を待たずして女学校を中退する令嬢……そんなきらきらと輝いている女学校の生徒である令嬢達の姿にひっそりと憧れを抱いていた。

(私もあんな風に……でももうこれからは奥方として頑張らないといけないしね。気合いれないと)
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