侯爵様の愛に抱かれて。〜大正溺愛華族譚〜
「葉子。入るぞ」

 葉子が教科書を読みながら勉強していると、正則が彼女の部屋へとゆっくりと入室してきた。スーツ姿から着流し姿に着替えた彼の見た目からは洋装とは違う色気があふれ出している。

「正則様、お疲れ様です」

 葉子がそうその場で座礼をすると、正則はそこまで気を使わないで良い。と答えた。

「気疲れしてしまうぞ。俺へはもう少し楽に接してくれて良い。妻なのだから」
「あ……すみません。こういうのまだ慣れていなくて」
「確かに仕方ない事ではあるな。ゆくゆくは慣れていくさ。だから焦らなくても結構」
「ありがとうございます」

 葉子のにこりとした微笑みに、正則はふっと笑いながら見入っていたのだった。

(葉子のこういう笑顔が見ていて好きだ)
「葉子。明日は昼前に洋館へ行くからな」
「はい。そのようですね」
「ああ、洋館は美しい所だ。それと貴様にはドレスを着てもらう。慣れないだろうが頑張ってくれ」
「はい。ドレスなんて着た事が無いので楽しみです」
「そうか。葉子は必ず似合う。楽しみにしているぞ。さあ、そろそろ寝ようか」
「あ……」

 寝ようかと正則から言われた葉子の動きが止まる。その状態でもしかして一緒に寝るのだろうか。と葉子はふと考えた。
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