侯爵様の愛に抱かれて。〜大正溺愛華族譚〜
「す、すみません!!」

 葉子は恥ずかしさをこらえながら大声でそう叫ぶとしばらくして女中3人がぞろぞろと広間へと入室してきた。

「奥方様、おはようございます!」
「近くにおらず申し訳ございません!」
「あ、そこは大丈夫なんですが……正則様は?」
「ご当主様は朝の散歩と鍛錬に道場へ出かけておいでです。じき戻って来ると思われます」
「鍛錬?」

 正則は早朝、近くの道場にて剣術や槍術などの武術の稽古に励んでいる。勿論護身術もかねて武術を磨いているし、もし弟のように自身も軍隊に所属する日が来ても大丈夫なように備えているのもある。

「なるほど……そうなのですね」
(確かに爵位を持つ殿方は武芸に励んで当然、かもしれないわ)
「奥方様。朝食はそろそろ頂きますか?」
「あ、はい。お願いします」
「かしこまりました。ご準備させていただきます」

 朝食はご飯と大根が入った味噌汁と、たくあんに鮭の切り身を焼いたもの。朱塗りのお膳に用意された朝食に葉子は思わず目を見張った。

(す、すごい!)
「では、頂きます」

 葉子が食べ終わるまでは傍らで女中が正座し、付き従っている。
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