侯爵様の愛に抱かれて。〜大正溺愛華族譚〜
「め、妾は嫌では無かったのか?」
「考えが変わりました。それにあの時は出過ぎた真似をしてしまい申し訳ございませんでした。舞踏会にはいらっしゃらないという事で後日また紀尾井坂様のお屋敷に直接訪問させて頂きますわ。それでは」
「あ、あぁ……それでは」
「奥方様にもよろしくお伝えくださいね?」

 電話はここで終わる。綾希子が放った最後の言葉に正則は警戒心を露わにする。

「奥方様にもよろしくお伝えくださいね? か……まさかもうあちらに伝わっているのか」
「正則様。どうしたら……」

 葉子もまた警戒心を露わにする。しかし正則とは違い身体が小刻みに震えだしていた。

「葉子。気にするな。俺がなんとかする。それに俺は紀尾井坂侯爵家の当主だ。相手は子爵家の令嬢。格が違う」
「お嬢様……綾希子様はそう容易くは無い相手です」
「だから、こちらも情け容赦なく相手する必要がある」
「……確かに、そうですね」
「内容によっては勿論警察にも介入してもらうつもりだ」

 力強く言いきった正則の拳もまた、力強く握りしめられていたのだった。

「葉子。貴様は俺の大事な妻だ。もう誰にも傷つけさせたりしない」
「正則様……!」

 正則は葉子をぎゅっと抱き締めたのだった。
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