侯爵様の愛に抱かれて。〜大正溺愛華族譚〜
「大丈夫? 血の気が引いた顔に見えるけど」
「大丈夫です……」
「無理はしないで。しっかりご飯食べて血を補わないといけないわ」
「葉子さん……すみません」

 その後、葉子は後ろ髪が引かれる思いを抱えながら部屋を退出し、他の女中と共に仕事を進めていったのだった。
 夜。今日綾希子は母親である正妻と共に夜会に出席する為に不在だ。子爵も他の華族の当主方と料亭へ向かった。なので家族は不在だ。
 女中達は家族3人がいずれも留守なので機嫌を良くしている。葉子もまた穏やかな心持ちで夕食を取っていた。

「今日は奥方様もお嬢様も旦那様もいないから良いわ」
「奥方様とお嬢様が夜いないのはよくある事だけど、旦那様も不在なのは珍しいかもしれないわね」

 父親である子爵は綾希子と正妻が留守を狙い芸者や正妻が認知していない妾を連れてくる事がしょっちゅうある。彼の女癖の悪さは葉子や女中達だけでなく、華族の女性もある程度は知っているとか。

(誰もいないから楽だ)

 女中達と葉子は質素な夕食を取りながらたわいない話をしていると、女中の1人が慌ててこちらへとやって来る。

「お嬢様と奥方様がお戻りになったわよ!」
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