侯爵様の愛に抱かれて。〜大正溺愛華族譚〜
 洋館の中には既に多くの令嬢や令息、軍人などが参加し互いにダンスを踊ったり会話をしたりして楽しんでいた。

「道を開けてもらおう」

 正則一行が洋館へと到着した瞬間。周囲にいた人々の視線は一斉に彼らへと向けられた。

「あっ紀尾井坂様よ!」
「えっ今日は来られないって聞いたけど……」
「それに傍らのあの女性、誰かしら? どこかのご令嬢?」
「さあ……知らない方だわ。紀尾井坂家のご当主様と親しそうにしているという事は、やんごとなきお方なのでしょうけど」
「おい、あれ誰だ」
「さあ、俺も知らない。見た事無いよ」
「じゃあ、海外で生まれ育ったお嬢様か?」
「ああ、それならあり得そうだが」

 参加者は皆、葉子をちらちらと見ながらひそひそと話をしている。

(やはり……私の事怪しむよね……)

 そのまま人垣をかき分けるようにしてダンスホールへと早歩きで移動する2人。到着するとその奥にはドレスアップした正妻と綾希子の姿が見えた。

「皆! ここに集まってほしい。話がある」

 正則は葉子の手を握り壇上へとエスコートした。その様子を綾希子はじっと睨むようにして目に焼き付けている。
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