侯爵様の愛に抱かれて。〜大正溺愛華族譚〜
 複数の令嬢達は次々に正則へ詰め寄る。その様子を綾希子は顔を両手で覆い泣く演技をしながら笑っていた。
 葉子の顔は引きつってはいるものの、まっすぐ前を見据えていた。

(私の素性を明かすしか……無いか)
「皆さん私は実は大波家の女中をしておりました」

 葉子の告白に正則へ詰め寄っていた令嬢達は一斉に動きを止めて葉子を見る。他の令嬢や令息、軍人達もまた、葉子を見つめる。

「私は女中として、大波家に仕えて参りました。しかし正則様と出会い、こうして結ばれる事となったのです」
「証拠はあるの?!」

 正則に詰め寄っていた令嬢の1人が葉子へ女中として働いていた証拠を見せろと促す。それを綾希子は顔を覆っていた手をゆっくりと離しながら見る。

(証拠?! そう言われても……)

 証拠と言われても葉子には差し出せる書類もないし他にこれと言ってない。そもそも働けと命令されて女中扱いされて来た為、葉子が大波家で女中として働いていた事を裏付ける証拠は無いも同然だった。

(どうしよう、どうしよう……!)

 焦る葉子。その間にも1人また1人と令嬢達は葉子へ証拠を出すように訴えてくる。
 その時。葉子にはあるものが見えた。
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