侯爵様の愛に抱かれて。〜大正溺愛華族譚〜
(あれ、皆あかぎれしてないんだ)

 令嬢達の手は皆揃って傷1つ無い綺麗な手をしているのが葉子の目に入る。手袋をしている者もいるがその者の手の形は美しい者だった。

(これなら、使えるかもしれない!)
「証拠はあります!」

 葉子は意を決して皆へ自身の両手を見せた。あかぎれの跡にごつごつした手。それは令嬢の美しい手とは違う、一見すると不細工な手だ。

「華族のご令嬢の手は皆綺麗なのですね」

 葉子がそうぽつりと零すと、令嬢達ははっ。と驚きの声を挙げた。

「確かに……葉子さんの手は使い古された手だわ。手仕事をしているような手」
「言われてみれば、うちの女中と同じ手つきをしているように見えるわね……」
「これは証拠だわ。令嬢らしくないもの」

 さすがの綾希子もこれには言い返す事が出来なかった。

「その通り。葉子は大波家で女中として働いていた。これは紛れもない真実だ。しっかりものな彼女なら紀尾井坂の奥方にふさわしい。俺は葉子を愛しているし、妾は必要ない」
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