侯爵様の愛に抱かれて。〜大正溺愛華族譚〜
 正則の言葉に周囲はざわつくも、少しずつそうだそうだ。という声や2人を祝福する声が広がっていく。

「お幸せに」
「子宝に恵まれますように」
「正則様がそう仰るなら、素敵な方よ絶対。末永くお幸せに」

 そして拍手の輪が次第に広がっていった。
 対照的に綾希子への関心はどんどん薄まっていく。その事に綾希子はいら立ちを隠しきれずにいた。

「ちょ、ちょっと待ってください皆さん!」

 幸せな雰囲気を切り裂くように、綾希子は声を挙げる。

「私もいますのよ! 私は妾でも構いません。紀尾井坂様のご寵愛を受けられるのであればどのような形でも構いません!」
(絶対に嘘だ。お嬢様……いや、綾希子さんが妾の立場で我慢できるはずがない)
「綾希子さん、本当に我慢できますか?」

 葉子からの問いに綾希子は固まる。それを悔しそうに正妻はただ見つめていた。

「私の母親と同じ扱いでも、あなたは我慢できるのですか?」
「なっ……!」
「妾になるってそういう事ですよ」
「そうだ。綾希子。貴様は妾というものをよく知っているだろうに。自分が嫌っている立場になっても良いのか?」
「ぐっ……うっ……」

 綾希子は両手を握りしめたまま、何も言い返せないでいた。
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