侯爵様の愛に抱かれて。〜大正溺愛華族譚〜
 髪結いが終わるといよいよ着付けに入る。

(白無垢楽しみ……)

 葉子の胸のうちではわくわくとした感情が若葉のように芽生えている。

「きつくないですか?」
「大丈夫です」

 着付けが終わると姿見で姿を確認した葉子は更にわくわくとした感情を深めていく。
 最後に花嫁化粧を施すと準備は終わりだ。

(これから結婚するんだ……)

 紀尾井坂の屋敷には既に客が詰めかけていた。先に紋付袴に着替えた正則は海軍から駆けつけた軍服姿の弟と共に玄関にて招待客を出迎えている。

「紀尾井坂様。ご結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます。本日は楽しまれてください」
「紀尾井坂くん。結婚おめでとう」
「これば陸軍大将殿……! ありがとうございます」
「紀尾井坂正則くん。結婚おめでとう」
「海軍大将殿ありがとうございます。弟がいつもお世話になっております」
「君の弟は実に優秀だ。いずれ艦長いや、海軍の幹部になる日も近いだろうな」

 正則が招待客を出迎えている様子を遠くから見つめている人物がいた。

「……正則様。葉子と結婚するなんて……許せない!」
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