侯爵様の愛に抱かれて。〜大正溺愛華族譚〜
 式が行われる直前。葉子は大広間の裏側にある部屋で待機していた。そこへ正則が現れる。

「葉子、緊張しているか?」
「しています。ドキドキとわくわくがあります」
「そうか。実は俺もだ」
「お揃いですね」
「ははっ、確かにそうだな」

 仲睦まじく会話をする正則と葉子の姿を女中達はおだやかに見つめていたのだった。
 式が始まろうとした時。玄関から何やら騒ぎらしき音がしているのに正則と葉子は気がつく。

「正則様、なんでしょう?」
「ちょっと見てくる」
「私も行きます……!」

 2人が玄関の近くまで移動するとそこには綾希子の姿があった。どうやら綾希子は招待客の男性に何か言われて腹を立てているようだ。

「紀尾井坂様に捨てられた女が来るなんてな!」
「何よ! 悪い?」
「どうせまだ未練があるから来たんだろう。情けない女だ」
「なんですって?!」
「正則様、どうします?」

 葉子がそう正則に問いかける。正則は考え抜いた末に綾希子には出ていって貰う事に決めたのだった。

「申し訳ないがあれは招かねざる客だ。出ていってもらおう」
「正則様、そうですね……」 
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