侯爵様の愛に抱かれて。〜大正溺愛華族譚〜
 正則と葉子は未だ客と口喧嘩している綾希子に慎重に近づく。


「綾希子。貴様には申し訳ないが出ていってもらおう」
「な、なぜですか正則様! 私は……」
「貴様は招かねざる客だ。それに貴様を妾にするつもりは一切ない。結婚したいなら他をあたるんだな」
「そう言われましても……!」
「綾希子さんには妾は務まらないでしょう」

 葉子はそう綾希子にキッパリと言いきった。葉子にとってここまで強く綾希子を否定したのは初めての経験である。

「葉子のくせに……!」

 綾希子はわなわなと震えだす。すると何かを袖口から取り出し葉子めがけて突進した。

「!」

 正則がかばおうと横に動き葉子はとっさに避けたが間に合わず。綾希子が持つ短刀は葉子の右脇腹を刺していた。
 葉子はそのまま崩れ落ちる。

「葉子!」

 葉子はそのまま気を失った。綾希子は無表情のまま葉子の脇腹を刺していた短刀を引き抜く。返り血を浴び呆然とした綾希子を近くにいた軍人達が一斉に取り囲み身体を取り押さえたのだった。
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