侯爵様の愛に抱かれて。〜大正溺愛華族譚〜
 幸い紀尾井坂の屋敷の近くに大病院があった為、葉子は正則ら男性達の手によりそちらへと担ぎ込まれた。

「すみません! 医者はいませんか!」

 大病院に着くや否や周りの患者や看護婦、医者達は血まみれの花嫁衣裳を身に纏った葉子の姿を見て、驚愕の声や叫び声をあげる。

「うわああ! 花嫁が!」
「おなかを刺されているわ! かわいそうに……!」

 正則は外科医はいないか! と必死に叫ぶ。すると外科医が慌てて葉子の元へと駆けつけた。

「紀尾井坂正則だ。彼女の手当てを早く……!」
「わかりました。ではこちらへ……!」

 気を失ったままの葉子は処置室へと担ぎ込まれ、そこで花嫁衣裳を看護婦数名が脱がせつつ、外科医によって止血の応急処置を施される。その後も処置は続き、葉子は担架に乗せられてそのまま病棟へと運ばれていったのだった。

「紀尾井坂様。お待たせしました」

 処置を終えた外科医が汗をかきながら正則の方へと駆け足で向かう。

「葉子はどうなんだ?」
「花嫁衣裳の帯のおかげか、思ったよりかは傷が浅くて済みました。もうしばらくすると目を覚ますかと思いますが、油断はなさらぬように」
「わかった、ありがとう。実は彼女は俺の嫁なんだ。だが、ある令嬢に刺されてな……」
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