侯爵様の愛に抱かれて。〜大正溺愛華族譚〜
「俺もまだ把握できていない事があるから、全部ではないが……とりあえず結婚式はお開きだ。招待客は皆帰って貰っている」
「綾希子さんは?」
「軍人らに身柄を取り押さえられていた。おそらくは警察に突き出されていると思われる」
「そうですよね……大波家はどうなるのでしょう」
「わからない。だが子爵は今の正妻と離縁してゆみという女を新しく妻に迎える予定なのは把握している。ひょっとすると警察と何かやり取りがあるかもしれないな」
「……ご迷惑をおかけしました」
「葉子は悪くない。悪いのは全て綾希子だ。それに葉子を守れなくて申し訳ない」

 正則はそう力強く言い切ったのだった。

「正則様……お気になさらないで。正則様の身体に何もなくて良かったですから」
 
 夜。正則と葉子が病室で歓談していると、子爵とゆみが見舞いに訪れた。

「電話で聞いた。葉子大丈夫か?」
「お父様……傷口が広がってはいけないので身動きは出来ませんが、なんとか」
「そうか」

 子爵はほっと肩を降ろした。ゆみも心配そうな目で葉子を見つめている。

「さぞや怖かったでしょう。お命が助かって良かったです。まさか結婚式の日にこのような事になるとは……」
「私も驚いています。妾の座は務まらない人物があそこまで……」
「葉子。俺は考えたんだがな」

 正則の発言に3人はじっと彼の顔を見つめる。

「おそらく綾希子は自分より葉子が幸せになるのが許せなかったんだと思う。妾の座にこだわっているのも形だけだろう。あいつに務まるとは思えない」
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