侯爵様の愛に抱かれて。〜大正溺愛華族譚〜
「葉子は気にするな。もうあれは考えなくて良い事だ」
「そうですね……」

 ちなみに離縁された元正妻は、ずけずけと子爵や正則に自身と綾希子の分の援助を申し出てきたと正則は語る。

「俺は勿論断った。なんで赤の他人に援助しなければならないのだとな。それでもあの女は泣きついてきたから警察を呼ぶと言ったら黙ったよ」
(確かに正則様の言う通りね。あの方と私には血の繋がりは無いし)
「子爵も支援はしないと言ったらしいがな」
「そうなんですね……」

 その後時は穏やかに流れ続け、葉子は無事退院日をの朝迎えたのだった。

「葉子さん、今日で退院ですね」

 看護婦が朝食を葉子の元へ持ってきながら笑顔でそう声をかけた。

「皆さんのおかげです。こうして無事退院できるのは喜ばしい事なので」
「いえいえ。葉子さんが助かって良かったですよ。また結婚式しましょう」
「そうですね。生きていればまた結婚式やり直せますしね」

 朝食はご飯と野菜がいくつかと豆腐が入ったお味噌汁、そしてサバの切り身を焼いたものにたくあんが並んでいる。
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