侯爵様の愛に抱かれて。〜大正溺愛華族譚〜
 と、心の中で愚痴をこぼしながら、2人の言い争いをじっと眺めつつ葉子は他の女中と共にその場を去ろうとしていた。しかし。

「ちょっとお姉様と女中。お腹空いたから何か作って」
(やけ食いか)
「何が良いですか?」
「何でもいいわ」

 とだけしか綾希子は言わない。これ以上聞いても彼女の機嫌を損ねるのは明白だと感じた葉子は女中らとさっさと退出して台所で料理を準備するのだった。

「葉子さん、どうするんですか?」
「とりあえずおじやでも出しましょう。あの人は柔らかいものが好きだから」

 綾希子は基本柔らかいものを好む傾向にある。特におじやなんかは好きな方だ。贅沢な卵を使ったものはより好きな部類に入る。
 葉子はささっとおじやを作り、綾希子の元へと差し出した。綾希子は無言で受け取るとさっそく小皿におじやを2口分くらい匙を使って移し、冷ましてから口に入れる。

「ん、美味しい」

 その後、綾希子は何もしゃべる事無くおじやを平らげたのだった。

「お膳おさげします」
 
 葉子はそう綾希子に声をかけ、空になったお膳を回収し、台所へと向かったのだった。すると廊下では子爵が帰って来たと女中達が慌てながら玄関へと向かっていた。
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