侯爵様の愛に抱かれて。〜大正溺愛華族譚〜
「2本ください」

 正則がそう言うと店主の老いた女性はあいよ! と返事し焼き立てほやほやの物を2本差し出した。

「お代はここに置いてね」
「はい、ちょうど」
「ちょうどね。おふたりとも楽しんでいってらっしゃい!」

 店主が葉子と正則を笑顔で送り出してくれた。葉子と正則は近くの浜辺がよく見渡せられるデッキへ移動し、竹串に刺さった焼きアサリの身を頬張る。

「ん、美味しい」
「ですね、しょうゆの香ばしい香りと味わいがします」
「佃煮と似たような感じがするな」
「確かに……!」

 あっという間に焼きアサリの身を食べ終えた2人。じっと無言で海を眺め、そして別荘へと歩いて戻っていった。別荘の近くにも観光客が訪れているようでにぎやかな声は夜になっても聞こえて来る。

「それにしてもにぎやかですね」
「ここの近くにはお茶屋や置屋があるからな。昔はひっそりと遊郭もあってその名残があるらしい。だから不夜城という異名があるくらいだ」
「なるほど……でも、静かでぴりついた空気よりかはこのような明るい空気の方が私にはあっているかもしれないですね」
「俺も同感だ。人の熱気を感じる事が出来るからな」
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