侯爵様の愛に抱かれて。〜大正溺愛華族譚〜
「おかえりなさいませ!」

 葉子は女中らと共に子爵を迎える。子爵の傍らには水色の着物を着た若い女性の姿があった。

「皆出迎えありがとう。あれは……」

 あれ、というのは正妻の事である。

「奥方様はお嬢様と共に先ほどお戻りになりました」
「そうか……なら仕方ない。ゆみ、入るが良い」
「子爵様、失礼いたします」

 子爵はゆみという名の若い女を引き連れ、屋敷の中に入る。そして正妻と綾希子がいる大広間を訪れたのだった。

「もう、帰ってきていたのか。早いな」
「ええ、色々ありましたもので……その方は?」

 正妻はゆみに鋭い目線を投げかけた。だがゆみは委縮する事なく柔和な笑みを浮かべている。その様子を葉子は他の女中と共にこっそりと後ろの隙間から覗いていたのだった。

「ああ、ゆみと言ってだな。この屋敷で住まわせてもらえないだろうか。行くあてもなく困っているのだ」
「奥方様にはご迷惑をおかけいたしますが、なにとぞ……」
「それにゆみは今、懐妊しているんだ。ぜひ俺の子として育てたい。すまないがよろしく頼むよ」
「まだまだ未熟者ですが、よろしくお願いいたします」

 頭を下げるゆみに対し、正妻は眉をひそめている。そこへ綾希子が気に食わないと言わんばかりに口を開けた。

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