侯爵様の愛に抱かれて。〜大正溺愛華族譚〜
「すまない。いずれにせよ明日は別荘の近くにある銀行で会議がある。一緒に行くよ」
「ですが、あなた……!」
「お父様! 行かないで!」
「今生の別れじゃあないんだ。また来るよ」

 子爵はそう告げてゆみの肩を抱き足早に去っていく。途中子爵は廊下で葉子と目があった。

「葉子。これを渡そう」

 子爵が葉子に渡した袱紗包の中にはお金がいくらか入っていた。

「いいんですか?」
「ああ。しばらくここには戻らないつもりだ。だから大事に持っていたまえ。それでは」
「お父様、ありがとうございます。……ゆみさんもお身体お気をつけて」

 葉子がゆみも気遣う言葉を発すると、ゆみは遠慮がちに会釈をした。

「ありがとうございます。では」

 ゆみは葉子ら女中にそう挨拶を済ませる。そして2人の姿は屋敷から消えたのだった。
 葉子は受け取った袱紗包を懐の中に急いで仕舞う。
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