引きこもり婚始まりました
このうえ会社で待ち伏せなんて、一体何やってるんだろう。
「なりふり構わなすぎでしょ……。ただでさえ、結婚なくなって注目浴びてるのに」
「こっちだって同じだよ。だから……」
(……だから? )
「……誰のせいなの」
自業自得でしょ。
私にも原因があったのかもしれないけど、それなら浮気する前に言ってくれたら。
何人もの女と遊ぶ前に、別れてくれてたら。
「……そうだよ。全部俺のせい。もう二度としないから、お前が戻ってきてくれるなら何だってする。時間が必要だと思うし、何もなかったことにして結婚してくれなんて言わない。だから……」
「……無理だよ。信じられない」
何人目でやっと気づけたのか、そんなの今更知ろうとは思わない。
ううん、知りたくもないから、知らないでいたいから。
「終わってたんだよ。私が知らなかっただけ」
男は浮気する生き物だから、せめて今回は水に流して――それは、少なくとも私には無理な話だった。
「……っ、それにしても優冬はやめとけ。お前のこと好きなのは確かかもしれないけど、あいつは……」
「優冬くんの悪口は聞きたくない。それに、本気で好きだって……私だけだって言われるのは心地いいよ。特に今は」
その心地よさに委ねてしまいたくなる。
でも、ダメだ。
私も優冬くんが好きだと、本気で言えるようになるまでは。
「じゃ、また。お義兄さん」
二度と会わないでいられないのを嘆くより、気の合わない義兄だと思った方がまだマシだ。
・・・
「遅かった……めぐ」
おかえりを言うのを途中でやめて、名前を呼ばれてもうごまかすのは無理だと悟った。
「ひどい顔。大丈夫とか何もなかったとか、仕事で疲れただけとか言われても、さすがに今は引き下がらないから。……何があったの」
「……春来が待ち伏せしてた」
優冬くんの顔を見て、「ああ、結局何も用意できなかったな」ってものすごい罪悪感に囚われる。
春来でいっぱいになってしまったのが申し訳なくて、そんな自分への嫌悪が後悔をより増幅させた。
「温かいのでも飲む? 先にお風呂でもいいし。ここにいる時は、ちょっとでもめぐが楽な方を選びなよ」
聞いておきながら、続きを促されない。
おまけに、返ってきたのは、優しいけどちっとも噛み合っていないこと。
ぽかんとしてる私の肩を一瞬だけ包んで、向けてくれた背中を見つめながら思う。
優冬くんになら、曝け出しても大丈夫だろうか。
今の私が頼れるのは優冬くんだけ。
だからこそ、答えがでるまで好意に甘えてはいけないと思ってたけど。
ううん、そもそも私は――……。
――状況に流されることなく、また好きという感情だけで関係を持てるようになるんだろうか。
「……少し、話してもいい? 」
「もちろん。ちょっとは俺にも分けてよ。……めぐ、あまりのことに怒りが振り切れて、悲しいになってるからさ。あ、でも、今日はお酒なしね」
異論はない。
でも、きっと。
それでも私の好みのものが、さりげなく出てくるんだろうな。
「……うん。ありがとう」
アルコールには頼らない。
傷ついている事実も、理由にはできない。
そのうえで、今私は優冬くんを男の人としてどれくらい好きなのか――まだ、はっきりさせる勇気はなかった。
言えることといえば、私も同じように優冬くんが喜ぶものをあげたい。
その為には、優冬くんのことをもっと知りたい。
それは確かに、嘘偽りなくそう思ってる。