引きこもり婚始まりました
(ぎゃぁぁぁぁー!! やっっばい……!! 何だか知らないけど、やばすぎる……! )
乙女だろうとそうじゃなかろうと、時に――結構頻繁に、女の思考は男の人には聞かせられない。
湯船に浸かって、どうにか心のなかで叫ぶに留めて。
バクバクした心臓を落ち着かせようと胸に触れて、お風呂という裸で当たり前の状況ですら、意識を男女に持っていこうとする。
だって、あの後――……。
『リモートになった理由、春来でしかないでしょ。自分が大変な時に、そうやって俺のこと考えてくれるの』
『そ、それは……いつも優冬くんが良くしてくれるから。少しはお礼したいし……それに、私だって楽しかったよ』
優冬くんの声に僅かに苛立ちが混じり、慌ててそう言ったけど、逆効果だったのか更に身体が密着した。
『めぐが大変な原因、俺のせいでもあるんだよ。めぐが意味不明に兄弟間でバタバタさせられてるのも、ほぼ知らない男とちゃっかり同棲させられてるのも全部……俺の責任でもあるのに』
『……そうかもしれないけど。だからこそ、私を楽にしてくれようとしてくれてるのは伝わってる。どっちの理由も、好きでいてくれるからだってことも、ちゃんと分かってる』
カツン……と。
誰かの靴音がして、身体を離す暇もないことにドキドキして――間に合わないと諦めたのがバレたのか、優冬くんはそっと掌で私の頭を撫でるように包み、私の顔を隠してくれた。
『全部分かってて、今振り払わないでくれるんだ』
背中に腕を回しているのを、気づいていないふりはもうできない。
『……大丈夫。約束は破らないよ。めぐの気持ちがちゃんと俺に向くまで、これ以上はしない。でも、ほんの少しずつでも俺を見てくれるようになってるなら……』
――俺に守らせてくれる……?
『めぐは、男に守られたいなんて思わないかもしれない。少なくとも、そんなこと自分から言うタイプじゃないことは分かってるけど。そもそも、現代日本では不要な台詞かもしれないし』
『……う、うーん……』
『だから、お願いしてる。めぐのこと、俺に守らせてほしい』
チラリと上目で様子を探れば、優冬くんの目は台詞以上に真剣だった。
『ひとまず、春来から。会社に圧力掛けるって異常だよ。そりゃ、どうとでもなるとは言ったけど……実質、めぐを仕事できない状況に追いやったのと一緒だ』
『……うん』
会社に来て意味ありげに呼び出せば、どうなるか。
分かっててやったにしても、想像もできなかったにしても、どっちも酷い。
『嫌……かな』
これからも、こういうことは多々あるんだろうな。
私を諦めるというより、春来がプライドを手放すまでずっと。
正直、それに一人で立ち向かう勇気は、今の私にはない。
『やった。何かあったら、いつでも言ってね。一緒に春来のこと、こてんぱんにしよ』
優しすぎて、冗談になりきてない。
でも、そこは笑っていたかった。
ちょっと無理したのもバレバレで、「もう誰もいないよ」ってそんなのとっくに知ってたことをわざと教えてくれた。
(……だから、やばいんだってば……!! 思い出すな……!! )
そっと、掌が私の頭の位置を戻して。
結果、少し離れたはずなのに、ぐっと距離が縮まった気がする。
(……だって)
ほんのすぐ上から、直接あんなに甘い視線を注がれたら。
おまけに私の腰は抱かれたままで、どこにも逃げ場所なんてなかった。
(……違う)
――逃げる気なんてあったら、優冬くんの背中に掴まって羞恥に耐えたりしない。
(……違ったんだ……)
お湯に沈んだって、何も変わらない。
私を好きだって言ってくれて、私も好感を持ってる男性と二人暮らし。
どんなにめちゃくちゃな経緯だろうと、わりとシンプルな事実を痛感するだけだ。