引きこもり婚始まりました
――甘く見ていた。
(パーティーの定義って何ぞ……)
いや、私だってさすがに誕生日パーティーとかさ?
友達や恋人とするクリスマスパーティーとかね??
そんなものとは絶対に全然違うって分かってはいましたよ……!?
というか、もちろんお堅いイメージの見るからに富裕層って感じの方々が着飾ってお上品に挨拶して、笑顔の裏には私利私欲バリバリだったり、牽制だの駆け引きだのが隠れてる世界を想像はしてましたが……!!
「めぐ。可愛い顔がすごいことになって、ちょっと俺しか分かんない可愛いさになってるかも」
(規模が違いすぎる……!! )
「そ、そんなこと言われても……!! っていうか、そもそも何目的のパーティーなの、これ……」
「ああ、うん。めぐ、聞かなかったから。パーティーで納得してたし、わざわざ言うことないかと思って」
そう言われたら、確かに。
お金持ちイコール、パーティーみたいな感じで、そんなこともあるんだろうな、くらいにしか考えてなかった。
「うちの会社の創立者の生誕何年だかのお祝い? だって。要は、表向きはひいおじいちゃんの誕生日パーティーで、コネ作りの場だったり、腹の探り合いをするいい機会みたいだよ。とっくに本人死んでるけど」
「……この前見たドラマみたい」
誕生日は合ってたけど、何かがそもそも盛大に違った。
設定聞いただけで、今にも愛憎劇が始まりそう。
「そんな面白いドロドロはないと思うけど、もう、そういうの見たくなくなるかもね。それより……大丈夫? 嫌になったらいつでも言ってね。さっさと帰ろ」
嫌というか、知らない世界すぎてまだ嫌にもならない。
ただただ照明も参加者たちも眩しくて、広さと天井の高さに目も追いついていかないし。
「大丈夫。これ乗り切ったら、おうちデートもっと楽しめそうだから」
「あ。またそうやって気を持たせるようなこと言う。……でもさ。おうち、でよかったんだっけ? 」
「……う、そ、そっちこそ」
そう。
何にしても疲れることだけは決まってるから、ゆっくり家で過ごそうか、とはなった――けど。
約束したのはちょっとだけ――でも、全然違う。
「……優冬くんのルームツアーです」
「えー……何か変わってない? 予定では、俺の部屋デートでしょ。めぐから言ったのに」
そう言われて、瞬時に意識があのキスの場面へと飛ぶ。
あの後も繰り返し繰り返し唇が重なって、意識も朦朧として――その時間が長くなるほど、理性なんてなくなってしまいそうだった。
『……ここまで、かな。これ以上続けたら、このまま流しちゃいたくなる……』
そう言われて、恥ずかしいことに私はがっかりした顔をしてたんだと思う。
『したいけどね。彼女になってくれてから数分で抱くとか、めぐにはできない。……辛いから、早くもっと好きになって』
そうわざと軽くしたみたいに、額にキスをして。
『シャワー浴びてくる。次のデートのことでも考えてて。行きたいとことか。もっと距離が縮まるように』
『あ……じゃあ、優冬くんの部屋が見たい』
そしたら、ちょっとは今の優冬くんを知れるかも。
『……めぐ。人の話聞いてた? 俺、つっらいんだよ。今、リビングにいるのもあって何とか抑え込もうとしてるけど。俺の部屋にもね、一応ちゃんとベッドってものがあるんだよ? 』
『し、知ってるよ……! じゃなくて……いや、じゃないこともないかもしれないけど、その、もっと優冬くんのこと知りたいと思って……』
あれから、ちょっとずつ優冬くんを知る機会も増えてきたけど。
昼間はお互いに仕事をしてて、帰ったら優冬くんが部屋から出迎えてくれた。
こうなったら、せっかくのリモートを有効活用したいし。
そしたら、お互いの部屋を行き来することもあるかも……なんて思った私はなかなか図太い。
『分かった。でも、今日は絶対無理だからね。パーティー終わったらさ。とりあえず、部屋でいちゃいちゃしてみよっか。もちろん、その時のめぐの気持ち次第だけど……覚悟できたら、声掛けて。ダメだったら、この話忘れたふりしてくれても構わないから。……え、俺? 』
――俺は、めぐといて、その気にならないことないから。俺も危険だって、覚えといてね。
(……覚えてる)
ここまで来て、忘れたふりなんてしない。
覚悟なんて、とっくにしてる。
きっと、恥ずかしいくらい、もう何度も。