引きこもり婚始まりました





あの、キスを。
愛しそうに撫でた後、背中から腰を抱かれるのを。
今日まで何度思い出したか、考えるだけで狂おしかった。
これじゃ、どう考えても私の方が我慢していて、実質私が優冬くんを襲ってるんじゃないだろうか。


(……恥ずかしすぎる……)


でも、これが終われば一緒にのんびりできるんだと思って何とか来られたし、慣れてしまえばひそひそ話の聞こえない在宅勤務は快適だった。
快適になればなるほど、仕事に余裕がでればでるほど、同じ家にいる優冬くんに意識がいってしまって。


(これって、生殺しってやつでは……)


いやいや、別に私だって、そればかり考えてるわけじゃない――断じて。
でも、もっと優冬くんと一緒の時間を過ごしたいのは事実で、なまじ同居していて会おうと思えば――ううん、思わなくても会える状況だからか、想像より側にいられないと寂しくなる。


『意地悪しないで。それとも、なんか試してる? 』


なんて、優冬くんは言うけど。
試されてるのは私なんじゃないかなって思うほど、あれ以来あんまりくっついてくれない。


「うそ」

「えっ……何が? 」


……って、ダメダメ。
まずは、この場を乗り切らないと。
具体的に何をしたらいいのか謎だけど、とにかく優冬くんに恥を掻かせるわけにはいかない。
春来がいつ飛び出してくるかも分からないし、気を引き締めておかないと。


「さっきの。めぐは、誰が見ても可愛い。……ドレス、似合ってるよ」


おばさんが贈ってくれたドレスはどれも分不相応だったけど、「言うなって言われたけど、それ優冬が選んだのよ。萌ちゃんが好きそうって」って、こっそりしっかり教えてくれたドレスは、確かにすごく可愛い。
愛情からくる大嘘だとしても嬉しいし、いつの間にか縮こまっていた背中を包むように抱かれると、自然に隣にいる優冬くんに身体を預けることができて安心する。


「そろそろ行こっか。人多いから、離れないでね」


さりげなく誘導されると、無意識のうちに優冬くんの腕に掴まって歩いていた。


(……でも、視線集中砲火すぎ……! )


イケメン御曹司と腕を組んで歩いていたら、それも当たり前か。
そういえば、こういうことは春来とは未経験だ。
パーティーがそうしょっちゅうあるわけでもないだろうけど、目立ちたがりのわりに私を連れて行きたがったりはなかったな。
まあ、私がそういうのに不慣れすぎて、そんな段階でもなかったんだろう。
私のドレス姿なんかより、優冬くんのスーツ姿の方が様になっていて、今更ながら身分違いを痛感する。
頂き物のドレスは高級でも、身のこなしはドレスを着ただけでは身につかない。


「大丈夫。そんなに難しく考えないで。今だって、ただのデートだよ」


緊張がバッチリ伝わってしまったのか、そう言ってくれたけど……やっぱり、これから慣れていかなきゃ。


「あ、優冬くん。珍しいね」

「ご無沙汰してしまってすみません。こういうのは兄の方が向いてるので、いつも任せてしまっていたんですが。今日は、彼女がいてくれるので」


挨拶回りとかするのかなと思っていたら、回るまでもなくいろんな人が入れ替わりにやって来る。
ひいおじいさんには申し訳ないけど、ここは練習させていただくと思って――……。


「兄弟取っ替え引っ替えなんて、すごいお盛ん」


(……あー……)


予想はしていた。
ここは聞こえないふりをするしかない……けど……!


「発情期の泥棒猫じゃない」


――日常で、そんな台詞吐かれることある?






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