引きこもり婚始まりました
・・・
「……あのさ」
優冬くんの車で二人きりになると、好戦的な雰囲気が一気に消えて、静かな車内が急に不安になる。
「ああ言ったけど……今日はこのまま出かけない? 」
「……そんな気分じゃなくなっちゃった? 」
予感はしてた。
というより、当然だと思う。
お下がりなんて言われて、今までずっと耐えてきたものが溢れ出しても仕方ないし、そんな私とそんなことする気分じゃなくなっても無理はない。
「……っ、違うよ。めぐといて、そんな気にならないわけないって言ったでしょ。そうじゃなくて……怖いんだよ。今、春来に対して本気でムカついてて……そんな時にめぐを抱くのが怖い」
ハンドルを握っても、行き先を躊躇している手に恐る恐る自分の手を重ねた。
「好きだからこそ、好き以外の感情が暴走しそうになるのが怖い。……ダメだよ」
手を離されるかと思った。
怖くて震えた手を見て少し目を丸めて、優冬くんはごく僅か首を振った。
「これは、支配欲だから」
あまりに動きが少なくて、そうじゃないと否定してくれたのか不安になる。
「元は愛情でも、支配欲とか独占欲が全部呑み込みそうになってる。だから、それでもいいなんて今は絶対に言わないで」
いつの間にか、重なった手は優冬くんの方が上になっていた。
何にしても運転してここを出なくちゃいけないのに、いつ振り払われてしまうのかと思うと不安で。
「……本当に好きなんだ。こんな気持ちで抱いたら、それが正常に薄まった時に絶対後悔する。だって……そうだよ。何もなくたって、頭が正常に動いてる時だって俺は」
――そんな最低なものを、けしてゼロにはできてないから。
「だから、ごめん。今日は……」
「じゃあ、今から仕切り直さない? 」
(けろっと、明るく。そんなの、なんてことないってみたいに……! )
だって、離さないでいてくれたから。
重なった手を、私のところに戻さないでいてくれるのなら。
「……は……? え、仕切り直し……? ってなに……」
「嫌じゃないなら、気分変えるようなことしようよ。それでもそんな雰囲気にならなかったら、その時はその時ってことで」
好きだからだって。
その気にならないわけないって。
そう言ってくれるなら、今を諦めない為に試してみたい。
「優冬くんの部屋でデート。今日は、確かに別世界すぎて疲れちゃったから……もっと庶民的な普通のデートしてみたい。このドレスも綺麗だけど、やっぱり上品でかつ色気出すって私には難しかったんだ。だから、デートしてても優冬くんがそんな気にならなかったら、それはごめんってことで」
「めぐ……」
まだ、今日は終わってない。
あんなことで終わらせたくない。
「話が変だよ。そんな気になるから困るって言ってるのに。大体、やる為にムードの仕切り直しって初めて聞いた。根本的に何か盛大におかしいよね」
「……う、それはそうなんだけど、そこはさらっと流しておいてくれてもいいとこ」
敢えてぼかしたところをストレートに言い直されてしまうと、一見意味不明だけど目的が明確すぎるデート案はめちゃくちゃ恥ずかしい。
「無理言わないで。……いくら俺でも、好きな子にそこまで言われて、さすがに逃げないから。あんまりぶっ飛んでて、ちょっとテンション変になってきたし」
くくっと笑われて、羞恥よりもほっとして気が抜け始めた頃。
「行こっか。仕切り直すんでしょ。……俺の気分変えてくれるの、楽しみにしてる」
――手、また震えてるかも。
捕まったままの掌へ口づけられ――目を瞑るどころか、どこまで進めるべきか探るように真剣に見据えられて。