引きこもり婚始まりました
・・・
「あ……わわっ」
「……っぶな。なんで、ゲームでそんなことになるの」
ベッドの上、優冬くんの膝の間に座って。
ゲーム機を持ったまま暴れる腕を、優冬くんが後ろからふわりと支えてくれた。
「だって、敵が襲ってくるんだから逃げないと……」
「逃げてたら、いつまで経っても終わらないよ。っていうか、ゲームの意義消える」
「そ、それはそうなんだけど」
テーブルの上には、チープでジャンクなジュースとお菓子。
ベッドにはドレスに優冬くんの上着を着たままの私と、ネクタイだけ緩ませたスーツ姿の優冬くんがいる。
「第一、めぐまで逃げなくていいから。そんな腕振り回さなくても」
「それも分かってるんだけど、勝手に動くんだから仕方な……っ。ご、め、よ、避けてっ」
腕が動くどころか、呼吸も一瞬止まってて上手く喋ることすらできない。
何ともめちゃくちゃで、ちぐはぐなデートだ。
「避けないよ。……こうする」
意味不明にピンと張った腕を片手で捕まえて、もう片方で背中を抱かれると、自然と顔が後ろにいる優冬くんの方に向いた。
「え。逃げ回ってるのに瀕死になってるの、なんで」
「……なんでかな……」
決まってる。
下手くそだからだ。
それに、上手くなる気もあんまりない。
「下手すぎでしょ。それに、言ってたほどはゲームに興味ないくせに」
(……バレてる)
うっと詰まった私から取り上げると、ぐっと背中を抱き寄せられた。
「……でも、俺には興味あるんだ? 」
「そ、それは、彼氏のことだもん」
「ふーん。そっか」
絶対に、納得してない。
次にどんな攻撃がくるのかと慌てる私を、まるで自滅するのを待つみたいに、優冬くんはにこにこして観察してる。
「……あ、優冬くん。髪にポテチが……」
「えー、もう。めぐが、お菓子持ったまま暴れるから。どこ? 」
「ちょっと待って。今……」
どれだけ暴れたら、こんなところにポテチが舞い降りるんだろうと笑えたのに。
髪からお菓子を払ってしまえば、ただ優冬くんを見下ろしているという慣れない状況に心臓がうるさい。
「……取れた? 」
「う、うん」
それなのに、このドキドキを鎮めるつもりはないのか。もう少し、髪に触れていたかったな――そう思ったのは、特に変な意味はなかったのに。
「そう。じゃあ……」
――きっと、指先が震えたのがバレた。
「……俺の番だね」
「あっ……」
「何が」なのかを聞く暇もなく、よりいっそう優冬くんの方へと身体が傾く。
不安定に倒れ込みながら、そういえば、優冬くんの足の間に跪いていたのを思い出した。
「ゆ……と、く……」
まだ唇を塞がれてもないのに、名前すら呼べない。
だって、そっと優冬くんが私の肩を包んだだけで、掛けていたジャケットがさらりと落ちてしまう。
「俺の為にそんなに一生懸命になったりなんて、可愛いことするから。俺が諦めたことを、君はまだ何とかしようって頑張ってくれる。……春来のこと、俺から追いやろうとしてくれてるよね」
「……そ、それは、その。気分転換になればいいなとは思ったけど」
余計なことだったかな。
春来との確執なんて、もう何十年にも及ぶことだ。
それを、こんなデートでなかったことにはできないって分かってはいるけど。
「俺はね。めぐに春来を忘れてほしいだなんて、もう思ってないよ。君から消し去れたらいいけど、そんなのは無理。いい思い出だって、きっとたくさんあるだろうから」
「…………」
答えられない私に微笑むと、ゆっくりと剥き出しの肩に口づけ、まだほんの少し上にいた私の両頬を包む。
「だから、いっそ比べてよ。俺と……兄さんと」
熱に浮かされたような瞳で見上げられて、露出が増えた肌にも瞬時に熱が籠ってしまって。
「どっちが君を大切にできるか、ちゃんと比べて。……いい? 」
頷くのが精一杯だったけど、後悔はしない。
比べなくたって、それは明言できるのに声にはならなかった。
答えは、とっくに出ている。
でも、このキスに溺れた先に、もっと確信に変わるに違いない。
――関係が深まれば深まるほど、優冬くんはもっと私を大切に愛してくれるってこと。